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その時、カルビの心のなかに大きな樹が映った。
それはシーアスの丘にそびえ立つナラヤーナの樹であった。
憎しみを持ったふたつの心が解けるときナラヤーナの奇跡が生まれると語り継がれている伝説の樹であった。
そのナラヤーナの樹が静かにカルビの心に語りかける。
(すべては同じ種である。すべては同じ根である。山も海も、魔女も人も)
夜の十字架がさらに輝きを増した。
森がザワザワと動き、カルビを包み込むように思えた。
刺々しい気持ちはなくなっていた。
いまは、スターシアを想う優しい気持ちでいっぱいだった。
その気持ちが、森にいる木々の痛みや悲しみを感じとった。
(悲しいなぁ)
と、思った。
森がカルビによりそった。
「負けだな。ぼうず」
と、声がした。
ふと見上げると、そこにはイバラの冠をかぶった黒髭の男が立っていた。
「精霊王か?」
とカルビが言った。
「そうだ」
低い声で黒髭は答えた。
「精霊王!」
と、ナムルが吠えるのを「まてよ、ナムル!」とカルビが制した。
「おまえが森を味方にしてしまっては、俺はおまえを森から追い出せないな」
「なぜ追い出すんだ」
「森を殺すからだ。人間は必要以上に森を壊すからだ。切るべきでない木を切るからだ。殺してはならない小動物を殺すからだ」
「山の民は森を理解している!」
「いまや、そうでもなかろう……、いまや……人間は森を知らない。森も人間も同じだということを忘れてしまった」
「お願いがある……この娘を助けるために夢消草をもらえないか……」
「森夢にやられているな……うむ……それは海の民……」
「そうだよ……」
「ほう……山の民が海の民を助けようというのか?」
精霊王はカルビに対しては怒りや憎しみの感情は持っていないようだった。
「海も山も……同じ人間だ……」
「……」
精霊王がじっとカルビを見つめた。
「海の民が森を壊せば、川が汚れ、海を殺す。うまく言えないけど、ふたつの世界はつながっているのだと思う。森は海を育んでいるのだと……」
それを聞いていたナムルが「なるほど」と感心した。
「お前は他の人間とは少し違うようだな……」
少し考えた精霊王が言った。
「夢消草を!」
カルビが精霊王の目を見つめた。透き通ったいい目をしていた。信じられる目だった。
「では、その娘に森を助けてもらおう」
「どうすればいいんだ?」
「私がその娘を助けるかわりに、海の民であるその娘が森を助けるのだ。この先にある老木を助けて欲しい。約束できるか?」
「約束する! 絶対!」
「いいだろう。では……これが夢消草だ」
と、精霊王が言ったとき、カルビたちの立つあたり一面に紫の小さな花をつけた草が一瞬にして咲き乱れた。
「夢消草だ! スターシアを早く、この草の中に寝かせるんだ!」
ナムルが叫んだ。
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