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スターシアは夢の中で、輝く光を見た。
それは、この世でいままで見た何ものよりも美しかった。
色とりどりの光を反射した幾千の宝石が野原一面にまき散らされていた。
「まあ、きれいだわ」
と、スターシアが宝石に手をのばした。
宝石が指先に触れた。
瞬間。
光が指先に刺さった。
どこかで、くぐもった笑い声が聞こえた。
しびれるような快感と苦痛がスターシアの全身を襲った。
「ああ……」
短いうめき声がスターシアの唇からもれた。
ナムルがスターシアの異変に気づいた。
「だあああああああ! どうした!」
と体をゆすった。
「ぎえええええええ! こ、こりゃ、大変だあああああ!」
ナムルは驚いた。
スターシアの体が石のように硬かった。
「げげげげ! こりゃ、もしや……森夢……」
と、牙をむき出してあたりを見渡し気配をうかがった。
森夢は、古くからこの山の国の森に住みついている病種だ。
山の民の多くは森夢に対する抵抗力を持っている。
「しまったーっ!」
ナムルが拳を握りしめた。
スターシアが海の民であることを忘れていた。
山の民以外の人間を森の奥に入れるときには、幾つかの手順が必要だった。たとえば、病種に対する抵抗力をつける為の薬草を使うとかだ。
ナムルは、なんとしてもスターシアを助けなければと思った。
森夢はスターシアの肉体に劇的な変化をもたらした。
「な、なんだこりゃ!」
ナムルが驚きの声をあげた。
硬質な光の結晶が小さくまばたきながらスターシアの体を包みはじめていた。
「スターシア……」
と、ナムルがスターシアの髪に触れた。
「な……」
ナムルが息を呑んだ。
なんということだ。やわらかいはずのスターシアの髪が、まるでガラス細工のようになってしまった。
「これは…宝石化現象……」
ナムルの表情が暗く険しくなった。
森夢によってもたらされる肉体変化には幾つかのパターンがあった。軽いものなら瞳の色が変化したり、髪の色が変化したりするものであるが、重くなると全身が無機質なものへと変化する場合があった。
その中でも宝石化現象というのは、森夢に深く冒された証のようなものであった。
山の民はこの現象を〈森に魅了された病〉と呼び、その人間が二度と森から出られないことへの訣別と悲しみを、森に愛されてしまったのだと思うことで納得しようとしたのだ。
森夢による宝石化現象を起こした人間は、その場に放置、森に魅了されたのだと思ってあきらめるしかないのだった。
ナムルは、ハッとした。そして、ありったけの知識を頭の中でめぐらせた。
宝石化現象を解く鍵があるはずだった。
森夢を解く鍵だ。
「鍵だ……鍵……うーーーん、うーーーん……」
頭がヒートするくらいナムルは高速で考えた。
長く生きてきたなかで、こんなに考えたのははじめてのことだった。
「そうか!」
ナムルはじっと宝石化したスターシアを見つめた。
キラキラと輝いている。
その光を見つめた。
「宝石はそれ自身は輝かない……光だ……」
と、ナムルは重なる枝や葉の間から差し込む太陽の光を見た。
光は宝石化したスターシアのなかに入り、そのなかで規則正しく反射する。そのときに宝石は光を放つのだ。
その光をエサにして森夢が増殖して、スターシアの精神を呪縛し、肉体を宝石化させている、とナムルは推測した。
(だがどうすりゃいい……)
太陽はちょっと傾きかけていた。
夜までしか時間がなかった。
(宝石化が不安定のうちになんとかしなくちゃ……)
ナムルは山の神としての全能をかけて考えぬいた。
(オレ自身が光となって、スターシアの体に入り森夢に喰われてやろう)
と、ナムルは目をつぶり術を唱えた。
世界が色を失った。術を唱えるとそう感じるのだ。
ナムルのからだが光となった。
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