| 太陽が頭上にあった。森の緑が濃い。むせかえるような山の匂いだった。
ナムルがスターシアを背負っている。
時折、カルビは振り返り、スターシアに声をかけた。
森はしだいに深くなっていた。
〈銀の皇帝〉の山城を出て2日間、山の中を歩いていた。水と食べものはナムルが見つけてきた。
サクサクと膝上まである下草を分けるようにして進んだ。
森の湿度を体に感じる。
「なんだか元気になるわ」
スターシアが言った。
「森には霊気がある」
ナムルが答えた。
森は生き物の心や体の傷を癒す。
「あの大きな木の下で休もう」
カルビが指さした。
「そうだな」
ナムルがうなずいた。
その木の下には下草がなく、鮮やかな緑の苔におおわれていた。
カルビが「今度は俺が、食い物探してくる」と走った。
ナムルはスターシアを苔の上に寝かせた。
ちょうど苔が自然のクッションのように柔らかくスターシアをささえた。
「カルビはいいやつだ」
「ええ。そうね」
スターシアはなぜナムルが突然そんなことを言い出したのかとまどった。
「あいつはあんたのことが好きだ」
「えっ……」
言葉につまった。
私も好きだと素直には言えなかった。
それは、ナムルとカルビの関係を思ったからだ。
このふたりの友情に、割り込んでしまうような気がしたからだ。
そのことが、言葉をつまらせた。
「あいつは特別なんだ」
「特別?」
「ああ。オレはあいつを喰った。それでも、あいつは生きた。オレはあいつに命をひとつやった。それで喰ったつぐないをした。あれは、偶然じゃない。たぶん、あいつを喰うことははじめから決められていたことなんだ。そして、オレの命をやることもな……」
ナムルは平然とした顔で深刻な内容をしゃべった。
「だれが、決めたことなの?」
「わからん」
あまり唐突なので、くすっとスターシアが笑った。
「笑うなよ。オレは真剣だ」
ナムルが口をとがらせた。
「信じるわ」
「いや、あんたは信じちゃいない。だがな、いつかわかる。この山に暮らしてみれば、生き物の一生がなんてはかなく、だけどなんとそのつながりが強いものかが」
「そうするわ。いっぱい教えてちょうだい、ナムル」
と、スターシアはナムルの手に自分の手を重ねた。
「あ、ああ」
と、手を引っ込めてナムルがテレた。
「少し疲れたわ」
「眠ればいい。安心して眠れ」
「うん」
スターシアが目を閉じた。
「いい夢を見るんだ」
ナムルが言った。
小さくスターシアがうなずき、すぐに眠りに落ちた。
いくつもの夢が重なった。 |