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ICON 新二都物語カルビサーガ 第89話

 カルビは体の毒を抜くため虎のナムルに抱えられて地中にいた。
 意識がぶよぶよとしている。頭の中がゼリー状態だった。
 何かを考えてみようとするが、考えはあちこちに拡散してまとまらなかった。
 俺は……と、思った。俺は……誰だ?
 やばいなあ。自分のことがわからなくなっているぞ。
 きっと毒のせいだな。あれ? 毒ってなんだ? そうだ、〈銀の皇帝〉だ。あいつが出したメシを、俺は、頭にのせた……いやちがう……メシを腕にはめた……あれ? なんだっけ? おかしいぞ、わかんなくなってる……やばいなあ。でも、まあ、いいかな。
 眠くなってきたなあ。
 そのとき、ギュッとナムルの太い腕がカルビを抱きしめた。痛いほどに強く。
「しっかりしろ」という声が聞こえた。
「山の人間だってことを思い出せ」と言われた。
 薄れてゆく意識の中で、ナムルの強い愛情を感じた。
 それは一瞬のことだったかもしれないけれど、カルビはナムルと一緒にいた時間をすべて思い出した。いろいろな出来事が脳裏によみがえった。怒ったことや笑ったことや戦ったことや……お互いに共有した時間は、とても濃い時間だった。
 鼻の奥がジーンとした。
 それが、カルビをかろうじて引き戻した。
 そうだ、俺は山の人間なんだ、と思った。
 鼻の奥に、土の匂いがした。
 はっきりと、土の匂いを意識した。
 そのとき、土は力強いエネルギーをカルビの体の中に送り込んだ。
 ビリビリと、そのエネルギーが伝わってきた。
 土がカルビを助けようとしていた。
 土に還れ、という言葉が山にはある。
 すべての生きものの命は、生まれてその役目を終えると土に還りそのエネルギーを土にもどすのだった。
 土は命のエネルギーを蓄えていた。
 そのエネルギーは山に生を受けたものたちに分け与えられる。
 グングンと山のエネルギーをカルビは吸収した。
 体の中に新しい生命エネルギーがわきあがってきた。
「ナ……ナムル?」
 カルビがつぶやいた。
「ああ、ここにいるぞ」
 ナムルはカルビを強く抱いた。
「どうして?」
「バカヤロー! オレはいつだってお前と一緒だ!」
「ナムル……会いたかった!」
「オレもだよ」
「あっ、スターシアは……」
「上にいる。よし行こう!」
 ナムルはカルビを抱えて地上に飛び出した。
「うわあああ!」
 カルビとナムルを見て〈銀の皇帝〉の部下たちは驚きの声を上げた。
「スターシア!」
 叫んでカルビが走る。
〈銀の皇帝〉ガッデムは意識のもうろうとしているスターシアの首をつかんで高々と吊るしていた。
「そこで止まれ! さもねえとこの姫君の首をへし折るぞ!」
 ガッデムは残忍な笑みを浮かべた。
「ぬおおおおおおおお!」
 カルビが拳を握って怒りをこらえた。
 そのときだ。
 握った拳の中に、グイグイと力がわきあがってきた。
 カルビは驚いた。
「な、なんだ……これは……」
 自分の拳を見た。
 拳が薄く光り始めた。
 圧倒的な力を感じた。
「ぬおおおおおおお!」
 その拳をガッデムに向けた。
 距離は10メートル。
 拳が爆発した。カルビはそう思った。
 だが、拳から放たれたのは、まぶしい光の束だった。


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