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ICON 新二都物語カルビサーガ 第86話

「これは姫君、ご機嫌うるわしく」
 と皮肉たっぷりの口調で、老僧が言った。
 片目の機械レンズが冷たく光っていた。
「この野郎ーーッ!」
 駆け出してきたナムルが、鎖でぐるぐる巻きのカルビを見て激怒した。
「おや、山の神もご一緒ですか。てっきり死んだのかと思いました」
 老僧はあくまで冷静だった。
「ざけんじゃねえぞ! さあ、カルビを返してもらうぜ!」
 ナムルが祭壇に上った。
 スターシアは油断しない。じっと老僧の動きを見つめた。変な動きをすれば一刀のもとに斬るつもりだった。
 ナムルが鎖をひきちぎった。
「カルビーーーーーーーーっ!」
 その体をゆり動かしたが、カルビはぐったりしたままだった。
「カルビは毒を飲んだの……」
 スターシアが言った。
「毒だと……」
 ナムルがつぶやく。
「そう。たぶん、こいつが毒を食べ物に入れたの」
 スターシアは斬ってしまおうかと思った。
「そう怒りなさんな。第一、わたしを斬れば解毒剤のありかがわからなくなりますよ。ほほほほ」
 老僧は笑った。
 ガッ!
 と、ナムルが老僧の襟首をひっつかんで、高々と吊るした。
「おい! 解毒剤は!?」
「おや、まあ……乱暴なことを……」
 レンズの眼がギュイイインと動き、キラリと光った。
「ナムル! 気をつけて! そいつの眼はあやしい術を放つの!」
 と、スターシアが言ったとき、
「ガッウウウウ!」
 うなり声を上げて、ナムルは老僧のレンズにかぶりついた。
 ガシャッツと音がして、レンズは粉々に砕けた。
「ぎゃああああああああああ!」
 と、老僧は悲鳴を上げた。
「あんまり人の心をもてあそぶんじゃねえ! 解毒剤は?」
 ナムルは老僧を怒りの目でにらみつけて牙をむいた。
「た、助けてくれ……お願いだ……」
「解毒剤は!?」
「たのむ降ろしてくれ……その手を、離してくれ……苦しい……」
「……」
 ナムルは手を離し、老僧を降ろした。
「ゴホゴホ……」
 と老僧は咳込んだ。
 その瞬間、フッと老僧の姿がかすむ。
「あっ! てめえ!」
 とナムルが手を伸ばしたときは、老僧の姿は空間に消えた。
「あまり魔法教会に逆らいなさんな。ほほほほ」
 声だけが残った。
「しまった!」
「カルビは?」
 スターシアが駆け寄ってカルビを抱いた。
 カルビの顔がしだいに青白くなってきた。
 スターシアはカルビの胸に耳を当てる。
「かなり弱いけど、まだ心臓は動いてるわ」
「カルビがそう簡単に死ぬかよ! なっ、カルビ! 死ぬんじゃねーぞ!」
 ナムルが吠えた。


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