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なんということだ。
いまにも、巨大なクモがスターシアを食いちぎろうとするどい牙を近づけた。
スターシアは硬く目をつぶった。
(カルビ!)
心の中で、カルビの名を呼んだ。
あの丘の上のナラヤーナの樹が風におおきくそよいでいた。
そんな風景が見えた。
「あんまり友達をいじめるなよな」
その声は天井のレリーフから聞こえた。
聞き覚えのある声だった。
ハッと目を開けた。
「なんだああああ!?」
〈銀の皇帝〉が叫んだ。
その瞬間に、バサッとはばたく音がして、黒い翼をひるがえして虎のナムルが舞い降りた。そして、クモの背中をつかむと、ドーーーンと壁にたたきつけた。
「おまえは……」
後ずさりしながらも、〈銀の皇帝〉は威厳を保とうとした。
「ナムル!!!」
スターシアは起きあがってうれしそうにナムルの首にしがみついた。
「ちょっと待ってくれ。再会の喜びは、こいつをかたづけてからだ」
ギロッと光る鋭い目でナムルは〈銀の皇帝〉ガッデムを見た。
普通なら、それだけで腰を抜かす。だが、気丈にもガッデムはにらみ返してきた。
「ほう。さすがに〈銀の皇帝〉って呼ばれるだけのことはあるな」
ナムルがクイッと一歩前に出る。
ガッデムは、どんどん、後ずさりして壁に背中がくっついた。
「後がねえぞ……」
「そ、そうかな?」
「てめえ、どーいうことだ?」
と、ナムルが言ったとき、ガッデムはニヤリと笑って壁のボタンを押した。
「うわああああああああああ!」
「きゃああああああああああ!」
ナムルとスターシアの立っていた床がパッカンと開いて、ふたりは奈落の底に落ちた。
「わははははは! ばかめ!」
ガッデムは勝ち誇っていた。
バサッと音がした。
「どっちがばかかな?」
ナムルはスターシアを抱きかかえながら、黒い翼をはばたかせ穴から上がってきた。
「ううううう……」
ガッデムが震えた。
腰の剣を抜いた。
「降ろして!」
スターシアが叫ぶ。
「おいおい……」
「いいの、ナムル。あいつは、あたしがやる」
と、スターシアは暖炉わきの壁に走ると、かかっていた剣を握り、ヒュンと空を斬る。
「さあ、いらっしゃい!」
その声は、王女、そして騎士としての威厳にあふれていた。
「なにを! こしゃくな女め!」
ガッデムは正式に剣を習ったわけではない。山でそこらの腕自慢を相手に無鉄砲さと腕力で勝っていただけのお山の大将にすぎなかった。
ブンブンと威勢よく剣をふりまわすが、訓練を積んだ騎士から見れば、子どものチャンバラ程度にしか見えなかった。
軽いステップでガッデムの剣をかわし、スターシアの剣が猛烈にのびる。
ピタリと、剣がガッデムの喉元に止まる。
ガッデムは動けなかった。
両手をダラリと下げて、大汗をかきはじめた。
動けば、自分の首にスターシアの剣が突き刺さる。
「ま、負けだ……」
それだけ言うのがやっとだった。
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