|
「い…いやあ…あははは…強いな。このブラックベアーも降参だ! ま、まいった……」
熊のように大きな体を折り曲げて地べたに両手をついた。
「もう村人を困らせるのはやめろよ」
カルビが言った。
「……わ、わかった」
意外にブラックベアーという男は物わかりがいい。
そのとき「ちょっと待って!」という悪意に満ちた声がした。
「な、なんだ! バックレッグ!」
「そんなことは簡単に決められないね!」
と、バックレッグがブラックベアーをにらみつけた。
この野盗たちの頭はブラックベアーで、バックレッグはその妹だ。だが、この妹は兄を差し置いて、いつか頭になるチャンスを狙っていた。
「その言い方はなんだ!」
ブラックベアーが顔を上げて妹をにらみつけた。
「あら、兄さんは、そんなヤツに負けたのよ。偉そうな顔しないでね」
悪意があった。
「てめえっ!」
そう言うのがやっとだった。
「ここのみんなもきっとあたしと同じだよ!」
「俺が頭じゃ気に入らねえって言うことだな!」
「そうね」
「みんな、このふたり、やっちまいな!」
バックレッグの命令に、まわりの野盗どもが殺気立つ。
実は、隣山に本拠地をかまえる〈銀の皇帝〉という野盗は、かねてからブラックベアーの縄張りが欲しくて、この妹バックレッグにおいしい話を吹き込み、ブラックベアーを裏切るようにしむけていたのだ。
いまがチャンスだった。
一気にブラックベアーの頭としての威厳を地の底に落とし、自分が頭になって〈銀の皇帝〉と手を結び山の国に大きく縄張りを広げ、その名をとどろかせたいとバックレッグは考えていた。
兄のブラックベアーは日頃から、縄張り拡大には消極的だった。
生まれ育ったこの山だけがブラックベアーの世界だった。
だが、妹は、権力にとりつかれていた。
どんどん縄張りを拡大して、自分が女王さまになる夢を見ていた。
カルビがスターシアをかばうように前に立つ。
スターシアは剣をゆっくりと正眼にかまえていた。
「ふざけるなよ!」
と、ブラックベアーが両手を広げた。
「どきなよ! 兄さん! さあ、みんな、あのふたりをやっちまいな!」
「このふたりにゃ、指一本ふれさせねえぞ!」
「ならば、兄さんも敵とみなすよ!」
かけ引きはバックレッグの方が上手だった。
カルビとスターシアを囲めば、男気を出して兄がかばうだろうと計算した行動だった。かばえば、敵だと言える。それで追放してしまえば、バックレッグの天下になる。もし、暴れたらそのときは兄でも容赦はしない。覚悟はできていた。
それにしても、いいタイミングで、カルビたちが乱入してきた。
バックレッグは、これが神の啓示なのだと考えた。
(やはり、わたしは女王さまになるべき人間なんだわ)
密かにそう思っていた。
さて、囲まれたカルビは、また笑っている。
バカバカしかった。
この野盗どもに、なんにもオーラを感じなかった。
オーラとは、人間の大きさみたいなものだ。
善人であれ悪人であれ、オーラの大きいヤツはエライのだとカルビは勝手に決めていた。戦いでは、オーラの強いやつが勝つのだと思っていた。
いま、カルビは、ここにいる人間たちの考えていることが、手に取るようにわかるのだった。心のなかまでスケスケに見えた。
「たいしたヤツがいねえな」
ポツリと言った。
その言い方がおかしくて、スターシアがクスッと笑った。
|