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ICON 新二都物語カルビサーガ 第73話

 季節でいえば秋の入り口ということになる。
 山の国マウンティアの秋は豊かな季節だ。
 山々は色づきはじめ、人々に実りの時を告げる。
 喜びの時である。
 山の民は歌い踊り、その喜びを山々の神に捧げ、そして自分たちが大自然の中で生かされているのだと感じる。
 海の国シーアスは海から恵みを受け、山の国マウンティアは山から恵みを受けている。それぞれ同じように思えるのだが、実は自然の恵みということに対する考え方はずいぶんと違うのだった。それは人生観や死生観、大きくは国のあり方にいたるまで少なからず影響をおよぼしていた。
 岩をくりぬいた仙人の家の中でカルビとスターシアは山の恵みを味わっていた。
 栗の実、山菜、キノコ、そして獣の肉……仙人の食卓は質素ではあるが、どれもおいしく、体と心に力をみなぎらせてくれるものであった。
「近頃じゃ、めっきり竜の肉も貴重品になったわっ……」
 と、仙人が白く長い髭をなでながら肩を落とした。
「シーアスの連中が竜をメチャメチャに狩るからだ!」
 カルビがスープを飲む手を止めて言った。
 ハッとしてスターシアがカルビを見る。
(七年戦争……)
 スターシアの心が一瞬、重くなった。
 黒い山羊の年。金の国シーアスの大魔王の予言により、シーアスに災いをもたらす銀の国マウンティアを併合すべく戦争が始まった。その戦争は七年の長きにわたり、多くの犠牲をはらい、最終的にシーアスが勝利し、シーアスの平和と繁栄が約束された。という歴史的な事実を思い出した。
 その戦争が終わってからすでに三年がたっていた。
「たしかに子どもの頃、竜の肉なんてなかったわ……いまじゃ結構シーアスでも食べてる。すごく高いけど。でも……目玉とか内臓とかはさすがに食べないわね」
 と、スターシアが言ったとき、
「ダメダメ。せっかく竜を殺したんだから、ちゃんと全部食べなくちゃ、かわいそうだ」
 カルビがムキになって反論した。

 


「かわいそう?」
 スターシアは、その意味を考えた。竜を殺し食べるのにかわいそうも何もないじゃないかと。
「俺たち山の人間は、大切に殺すんだ。弱い竜、長く生きられないと思える竜を狩る。取りすぎない。木の実だってそうだ。来年のことを考えながら取る。多く取れたら保存する。かわいそうってのは、せっかく俺たちの食べ物になった生命に対して精一杯の感謝の気持ちでおいしく食べるってことだ」
「山の民の考えね……」
 スターシアは感動した。
 少なくとも生みで魚や獣を取って生活するシーアスの人間には、来年のことを考えながら漁をするという習慣はなかった。
「あんたは海の民なのに、山の民の心をわかろうとしている。なかなか感心じゃ。いいかね、海の底というのは見ることができぬ。しかし、山は、その頂に登ることによって、山の恵みのあり方を知ることができる。今を生きるのが海の民であり、将来を生きるのが山の民であるとも言えるかもしれぬ」
 仙人が静かに語った。
「シーアスは今を生きるためにマウンティアを制圧したっていうのか!?」
 カルビが仙人に向かって言葉を強く吐いた。
「今を生きる者は、常に将来が不安なのじゃよ。走っていなくては死んでしまうとでも思っておる。止まることができん」
「わからねぇよ」
 カルビには仙人の語る意味が理解できなかった。
「少しわかるような気がします」
 スターシアが答えた。
「ほほほほ。海の娘の方が山の子よりも、少しばかり頭への血のめぐりがよいようじゃな」
 仙人が楽しそうに笑った。
「ちぇっ!」
 カルビがおどけて口をとがらせた。その仕草にはなんとも言えぬ愛嬌があって、その場の空気がフッとなごんだ。
「あははははは。でも当たってる。スターシアの方がきっと頭がいい」
「ほほほほ。よく自分のことがわかっておる」
 と、仙人が笑った。
 クスッとスターシアも笑ってしまった。
 なんて楽しい食卓なんだろうとスターシアは思った。
 まるでそんなスターシアの気持ちを感じ取ったかのように、
「メシは楽しく暖かくだよな」
 と、カルビが言った。
 子どもの頃からずっとそんな食卓に座わったことがないなぁとスターシアは思った。
 いつも寒々とした王宮の中で、執事たちに傅かれながら、たったひとりで食事をしてきたのだった。


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