|
「これこれ、そこでなにをはしゃいでおるのか?」
しわがれた声に、カルビとスターシアが振り返ると、泉のわきの大きな樹のところに、ボロボロの服を着た老人が立っていた。白髪を背中までたらし、長い眉は目をおおい、長いヒゲは地面にとどきそうだった。
「あーと、水浴び」
簡単にカルビが答えた。そしてニッと笑った。
「そこはわしの泉だが」
「そうか。でも昔はなかったんだけどな?」
と、カルビがぶつぶつ言った。
「つい10日前に、そこにあった大きな樹が倒れてな、その後から泉が湧き出たんじゃ」
「ふーん。だから俺が知らなかったのか」
「おや? おまえは、山の子じゃね」
「うん。カルビって言うんだぜ」
「ほうほう。あのやんちゃな山の神ナムルと一緒に走り回っていた子じゃね」
「うん。そうだよ」
「おやまあ、ナムルがそんなべっぴんの娘に化けたのかい?」
「ちがうわい! これはスターシア……」
シーアスの姫さまと言いそうになって、それは飲み込んだ。
「よろしく」
と、スターシアが頭を下げた。
「こちらこそ」
「あんた、仙人だろ」
「そうじゃよ」
「ほら、スターシア! これが仙人だ!」
と指さした。
「こらこら、わしは見せ物じゃないぞ」
「あ、ごめん」
「ほほほほ。なかなか、おもしろい子じゃな。そうか? わしの家に来んか? 昼飯くらいはごちそうするぞ」
「行くよ! な、スターシア!」
カルビの声がはずんだ。ここんところ木の実や草ばかり食べていたので、ちょっとはましなものが食いたかった。
「じゃ、おいで」
と。仙人が歩きだした。
あわててカルビとスターシアは泉からあがり、濡れた体で仙人の後を追った。
仙人の家はしばらく歩いたところにある大きな岩をくりぬいた中だった。
薪に火をつけた仙人が「さあ、濡れた体を乾かしなさい」と言った。
「ありがとうございます」
スターシアがていねいに礼を言った。
「さて、メシにしよう」
と、仙人が支度をした。
 |
「ぐえ〜〜〜〜〜〜っ! なんだこれ!?」
カルビは目をむいた。
スターシアは、ギョッとして体を硬くした。
「お客さまなので特別料理じゃよ」
「な、なんだよ……これ?」
「こりゃ、竜の目玉じゃ」
火にかけた大鍋のなかで、丸く光る目玉がグルングルンと煮詰まっていた。
「うまいよ。それに元気になる」
仙人はうれしそうに、鍋の中の目玉をくずし、皿に取り分けてくれた。
「さあ、お食べ」
「う、うん」
さすがのカルビもまだ竜の目玉は食べたことがなかった。
ましてや、お姫さま育ちのスターシアが食べているはずもなかった。
「いただきます」
スターシアは皿の中の目玉を食べ始めた。
カルビはその様子を横目で見て「さすがに姫さまだ、ものに動じないな」と感心した。
「うまいか?」
「うん」
スターシアは微笑んだ。
極上の笑みだった。
(この姫をずっと守ってみせる)
カルビはこころの中で誓っていた。
|