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ICON 新二都物語カルビサーガ 第71話

 山々が幾重にも重なっていた。
 カルビとスターシアはすでに10日も山中を走っていた。
 食料も水も困らなかった。山々はカルビの庭のような場所だった。
 ここは山の国マウンティア。海の国シーアスが滅ぼした国だ。
 まだあちこちに戦火の爪痕が残っていた。
 だが、山は生きている。ゆっくりとではあったが種が芽を出し、花は実をつけ、深い傷痕を消そうとしているのがわかった。
 この10日間、カルビとスターシアはお互いのことを話し合った。生い立ちや考え方や夢などだ。
 スターシアは「また平和なシーアスにもどるといい」と夢を語った。
 カルビは「俺は……」と、少し言いよどんで「ナムルの背中に乗って空を飛ぶ」と答えた。それが素直な、いまのカルビの気持ちだった。
 スターシアは、そんな無邪気なカルビがだんだん好きになっていた。
 しだいに山が深くなってきた。木々の緑が深くおおいかぶさっていた。
 しばらく行くと、急に視界が開けた。
 そこは、石垣を並べた囲いのある村だった。
「ここには、むかし仙人が住んでたんだけどな?」
 カルビがあたりを見渡した。
「仙人?」
 スターシアは海の人間だった。だから仙人などという存在は知らなかった。
「そうか、仙人知らないのか……山に住むなんでもできる長老のこと……うーん、うまく説明できないな。まあ、会えばわかるんだけどな」
「ナムルみたいな?」
「違うよ。あれは山の神だ。仙人は修行した人間だ。雲や霞を食べて生きてるのさ」
 カルビの言い方には、仙人を慈しみ尊敬する感じがあった。
 どこからか水の流れる音がした。
「のどがかわいたわ」
 スターシアが言った。
「そうだね。あっちかな?」
 と、カルビが足早に歩く。
 ちょうど樹齢数百年という巨大な樹の向こう側に、その音が聞こえた。
「うわあ、これは……」
 目の前には、大きな泉があった。
「きれい……」
 スターシアは思わず見とれた。
 それは、スターシアがいつも見ていた海とはまったく違うものだった。
 清くはかなく、ぎりぎりにそぎ落とした美しさだった。
 チャップ。と、カルビが足を泉の水にひたした。
「冷てえ……」
 カルビが笑った。
 スターシアも足を水に入れた。
 バシャッ! とカルビがスターシアに水をすくってかけた。
「キャッ!」
 と、スターシアがうれしそうな声を上げた。
 そんな声を上げるのは、いったい何年ぶりだろうとスターシアは思った。
 スターシアのなかで、なにかがボロッとはげ落ちたような気がした。
 はげ落ちたのは、プライドだったかもしれない。
 そうだ、この泉に全部捨ててしまおう。
 スターシアは泉の中にズンズンと入った。
「おい……そうか水浴びか! よし、俺も!」
 と、カルビがザブンと頭から飛び込んだ。
 バシャバシャとカルビが泳いだ。
「スターシアも泳げよ」
「うん」
 スターシアもザブンと頭から水に入った。
 いやなことが全部洗い流されていくような感じがした。


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