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山々が幾重にも重なっていた。
カルビとスターシアはすでに10日も山中を走っていた。
食料も水も困らなかった。山々はカルビの庭のような場所だった。
ここは山の国マウンティア。海の国シーアスが滅ぼした国だ。
まだあちこちに戦火の爪痕が残っていた。
だが、山は生きている。ゆっくりとではあったが種が芽を出し、花は実をつけ、深い傷痕を消そうとしているのがわかった。
この10日間、カルビとスターシアはお互いのことを話し合った。生い立ちや考え方や夢などだ。
スターシアは「また平和なシーアスにもどるといい」と夢を語った。
カルビは「俺は……」と、少し言いよどんで「ナムルの背中に乗って空を飛ぶ」と答えた。それが素直な、いまのカルビの気持ちだった。
スターシアは、そんな無邪気なカルビがだんだん好きになっていた。
しだいに山が深くなってきた。木々の緑が深くおおいかぶさっていた。
しばらく行くと、急に視界が開けた。
そこは、石垣を並べた囲いのある村だった。
「ここには、むかし仙人が住んでたんだけどな?」
カルビがあたりを見渡した。
「仙人?」
スターシアは海の人間だった。だから仙人などという存在は知らなかった。
「そうか、仙人知らないのか……山に住むなんでもできる長老のこと……うーん、うまく説明できないな。まあ、会えばわかるんだけどな」
「ナムルみたいな?」
「違うよ。あれは山の神だ。仙人は修行した人間だ。雲や霞を食べて生きてるのさ」
カルビの言い方には、仙人を慈しみ尊敬する感じがあった。
どこからか水の流れる音がした。
「のどがかわいたわ」
スターシアが言った。
「そうだね。あっちかな?」
と、カルビが足早に歩く。
ちょうど樹齢数百年という巨大な樹の向こう側に、その音が聞こえた。
「うわあ、これは……」
目の前には、大きな泉があった。
「きれい……」
スターシアは思わず見とれた。
それは、スターシアがいつも見ていた海とはまったく違うものだった。
清くはかなく、ぎりぎりにそぎ落とした美しさだった。
チャップ。と、カルビが足を泉の水にひたした。
「冷てえ……」
カルビが笑った。
スターシアも足を水に入れた。
バシャッ! とカルビがスターシアに水をすくってかけた。
「キャッ!」
と、スターシアがうれしそうな声を上げた。
そんな声を上げるのは、いったい何年ぶりだろうとスターシアは思った。
スターシアのなかで、なにかがボロッとはげ落ちたような気がした。
はげ落ちたのは、プライドだったかもしれない。
そうだ、この泉に全部捨ててしまおう。
スターシアは泉の中にズンズンと入った。
「おい……そうか水浴びか! よし、俺も!」
と、カルビがザブンと頭から飛び込んだ。
バシャバシャとカルビが泳いだ。
「スターシアも泳げよ」
「うん」
スターシアもザブンと頭から水に入った。
いやなことが全部洗い流されていくような感じがした。
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