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ICON 新二都物語カルビサーガ 第52話

 ナラヤーナの樹からふりそそぐ光の胞子が、カルビとスターシアを包んだ。
 あったかだった。
 心が暖かくなる光であった。
 カルビは、思い出した。母の暖かさを。
 それは、幼い頃の記憶だった。
 忘れていた、潜在意識のなかにしまいこまれた記憶だった。
 ひとりぼっちになったさびしさゆえに、心の中にしまいこんだ母の暖かさだった。
 それが、いま、あふれだしてきた。
 母は、戦火のなかで、カルビを抱きかかえ、カルビの命を守って死んだ。
 母とはそういう存在なのだ。
「カルビ。ねえ、カルビ。かあさんはずっとおまえのことを見守っているよ。かあさんの命は、おまえのなかにあるんだからね」
 そう言って、母は死んだ。
 その言葉が、カルビのなかによみがえった。
「かあさん……」
 カルビはスターシアを抱きしめてつぶやく。
 大理石のように冷たいスターシアに光の胞子が落ち、しだいに、スターシアのからだを暖かくした。
 スターシアは深い眠りから、急速に覚醒した。
 そのとき、スターシアは、父の暖かさを感じた。
「おとうさま……」
 幼い日々を、スターシアも思い出していた。
 その父は、あのアブラック三世ではなかった。
 思い出のなかの父は、スターシアを抱いていた。
 父にはツノがあった。
 あきらかに人間ではなかった。
 魔界のものであった。
「わたしは、人間との争いを終わらせるために、おまえを手放さなければならぬ。父をゆるしてくれ……さあ、わが娘と魔王の宝〈マナ〉を人間界につかわそう。これで、この世界の調和を保とうではないか!」
 その言葉がスターシアの記憶によみがえった。
 そうだ。スターシアは魔王の娘だった。
 世界の調和を保つために人間界にもたらされた、いわゆる人質だった。
 なぜ、アブラック三世の娘となっているのかは、スターシアの記憶にはない。
 それは後に、語られることだ。
「スターシア!」
「カルビ!」
 いつの間にかふたりが手を握りあった。
「よかった」
 素直にカルビが言った。
「不思議だわ……いま、カルビのことをすごく身近に感じる……」
 スターシアの言葉には優しさがあふれていた。
「さあ。立てるかい?」
「うん」
 立ちあがったスターシアがナラヤーナの樹を見上げて、
「わたしはこの世界を平和にしたい」
 と、つぶやいた。
「そうだな」
 カルビがうなずいた。
「そのためなら、どんな困難な戦いでも、わたしはもうくじけないわ!」
「俺が必ずスターシアを守るさ」
「うん。約束ね」
「ああ」
 ふたりはナラヤーナの樹の下で、指切りをした。
 そのふたりの姿を、魔女のウキウキがちょっと複雑な気持ちで見つめていた。
(あたし……カルビが好きなのかもしれない)
 と、そのときウキウキは思った。


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