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ナラヤーナの樹からふりそそぐ光の胞子が、カルビとスターシアを包んだ。
あったかだった。
心が暖かくなる光であった。
カルビは、思い出した。母の暖かさを。
それは、幼い頃の記憶だった。
忘れていた、潜在意識のなかにしまいこまれた記憶だった。
ひとりぼっちになったさびしさゆえに、心の中にしまいこんだ母の暖かさだった。
それが、いま、あふれだしてきた。
母は、戦火のなかで、カルビを抱きかかえ、カルビの命を守って死んだ。
母とはそういう存在なのだ。
「カルビ。ねえ、カルビ。かあさんはずっとおまえのことを見守っているよ。かあさんの命は、おまえのなかにあるんだからね」
そう言って、母は死んだ。
その言葉が、カルビのなかによみがえった。
「かあさん……」
カルビはスターシアを抱きしめてつぶやく。
大理石のように冷たいスターシアに光の胞子が落ち、しだいに、スターシアのからだを暖かくした。
スターシアは深い眠りから、急速に覚醒した。
そのとき、スターシアは、父の暖かさを感じた。
「おとうさま……」
幼い日々を、スターシアも思い出していた。
その父は、あのアブラック三世ではなかった。
思い出のなかの父は、スターシアを抱いていた。
父にはツノがあった。
あきらかに人間ではなかった。
魔界のものであった。
「わたしは、人間との争いを終わらせるために、おまえを手放さなければならぬ。父をゆるしてくれ……さあ、わが娘と魔王の宝〈マナ〉を人間界につかわそう。これで、この世界の調和を保とうではないか!」
その言葉がスターシアの記憶によみがえった。
そうだ。スターシアは魔王の娘だった。
世界の調和を保つために人間界にもたらされた、いわゆる人質だった。
なぜ、アブラック三世の娘となっているのかは、スターシアの記憶にはない。
それは後に、語られることだ。
「スターシア!」
「カルビ!」
いつの間にかふたりが手を握りあった。
「よかった」
素直にカルビが言った。
「不思議だわ……いま、カルビのことをすごく身近に感じる……」
スターシアの言葉には優しさがあふれていた。
「さあ。立てるかい?」
「うん」
立ちあがったスターシアがナラヤーナの樹を見上げて、
「わたしはこの世界を平和にしたい」
と、つぶやいた。
「そうだな」
カルビがうなずいた。
「そのためなら、どんな困難な戦いでも、わたしはもうくじけないわ!」
「俺が必ずスターシアを守るさ」
「うん。約束ね」
「ああ」
ふたりはナラヤーナの樹の下で、指切りをした。
そのふたりの姿を、魔女のウキウキがちょっと複雑な気持ちで見つめていた。
(あたし……カルビが好きなのかもしれない)
と、そのときウキウキは思った。
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