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ICON 新二都物語カルビサーガ 第41話

 教会のなかから、騎士たちの悲鳴が聞こえた。
「どうしたっ!?」
 バッカス伯爵の顔に驚きの色があった。
「第二団! 突入!」
 と、剣を抜いたバッカス自身が先頭に立ち、五〇人の騎士が教会に突入する。
 広い礼拝場に入ってすぐに、第二団の騎士たちは左右にサッと分かれた。
 よく訓練された動きだった。
 だが、その騎士たちが動きを止めて棒立ちになった。
 教会の床や壁や天井に、ヌラヌラとするものを発見した。
 祭壇の上のロウソクの火に照らされ、それはグロテスクに動いていた。
「ま、まさか……第一団の50人が……一瞬でやられたと言うのか……」
 伯爵は息をのんだ。
 暗がりに目がなれると、あたりに第一団の騎士たちがころがっていた。
 もう、息がないのはあきらかだった。
「この化け物!」
 と、先頭の若い騎士がカッとなって躍りかかる。
「早まるな!」
 伯爵が叫んだが、遅かった。
「がるるるる!」
 怪物がうなる。
 あっというまに、怪物は一撃で騎士を引きちぎった。
 圧倒的な力だった。
「こ、こんなものを教会がつくりだしていたのか……」
 伯爵は、吐き捨てるように言った。
 騎士たちの間に恐怖の色が広がる。
「行けーーーーーっ!」
 伯爵は剣を高々とかかげて先頭に立って突っかけた。
「うおおおおおおお!」
 と、騎士たちがつづく。
 騎士は剣に生きる者だ。剣を使わないで死ぬことは不名誉なことなのだ。
 どんな敵であろうとも、騎士は剣を持って挑むことが名誉だった。
 たとえ、それがあきらかに死を意味することであっても、騎士は剣を持つ。
 怪物が「ぐああああ!」と腕を振り回す。
 バッカス伯爵は巧みなステップでかわすと、わきにまわりこみ、ビュッ! と剣を振り下ろし、結果を判断せずにサッとバックステップで後退する。
 一撃後退の技だ。
 それを見た後続の騎士たちも、同じ攻撃をくりかえした。
 必殺の剣ではない。
 こちらのダメージをなくして、相手にジワジワと傷を与えていく攻撃だ。
 だが、騎士として華のない攻撃でもあった。
「勇敢に死んでゆくのが騎士の務めではない。どんな戦いにおいても生き残り、自分の信じる者を守り抜くことが騎士の務めなのだ」
 とバッカス伯爵は考えていた。
 怪物は、それでも、なかなか倒れなかった。
 ながい時間、騎士の一撃後退の攻撃がつづいた。
 その間にも、ひとり、またひとりと、騎士が怪物にひねりつぶされた。
「こいつは……不死身なのか!」
 と、伯爵が舌打ちしたとき、ひとりの騎士が剣で怪物の赤い目を貫いた。
「ぎゃああああああああああああ!」
 と、怪物がのたうつ。
「いまだ!」
 一斉に騎士たちが怪物めがけて突進した。
 教会に静寂がおとずれた。
 聖なる場所に、血塗れの騎士たちが声もなく横たわっていた。
 そのなかに、たったひとり伯爵は立ちつくしていた。
 伯爵のからだにみなぎっていた豪快さは消えさり、まるでぬけがらの老人がそこにいた。


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