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教会のなかから、騎士たちの悲鳴が聞こえた。
「どうしたっ!?」
バッカス伯爵の顔に驚きの色があった。
「第二団! 突入!」
と、剣を抜いたバッカス自身が先頭に立ち、五〇人の騎士が教会に突入する。
広い礼拝場に入ってすぐに、第二団の騎士たちは左右にサッと分かれた。
よく訓練された動きだった。
だが、その騎士たちが動きを止めて棒立ちになった。
教会の床や壁や天井に、ヌラヌラとするものを発見した。
祭壇の上のロウソクの火に照らされ、それはグロテスクに動いていた。
「ま、まさか……第一団の50人が……一瞬でやられたと言うのか……」
伯爵は息をのんだ。
暗がりに目がなれると、あたりに第一団の騎士たちがころがっていた。
もう、息がないのはあきらかだった。
「この化け物!」
と、先頭の若い騎士がカッとなって躍りかかる。
「早まるな!」
伯爵が叫んだが、遅かった。
「がるるるる!」
怪物がうなる。
あっというまに、怪物は一撃で騎士を引きちぎった。
圧倒的な力だった。
「こ、こんなものを教会がつくりだしていたのか……」
伯爵は、吐き捨てるように言った。
騎士たちの間に恐怖の色が広がる。
「行けーーーーーっ!」
伯爵は剣を高々とかかげて先頭に立って突っかけた。
「うおおおおおおお!」
と、騎士たちがつづく。
騎士は剣に生きる者だ。剣を使わないで死ぬことは不名誉なことなのだ。
どんな敵であろうとも、騎士は剣を持って挑むことが名誉だった。
たとえ、それがあきらかに死を意味することであっても、騎士は剣を持つ。
怪物が「ぐああああ!」と腕を振り回す。
バッカス伯爵は巧みなステップでかわすと、わきにまわりこみ、ビュッ! と剣を振り下ろし、結果を判断せずにサッとバックステップで後退する。
一撃後退の技だ。
それを見た後続の騎士たちも、同じ攻撃をくりかえした。
必殺の剣ではない。
こちらのダメージをなくして、相手にジワジワと傷を与えていく攻撃だ。
だが、騎士として華のない攻撃でもあった。
「勇敢に死んでゆくのが騎士の務めではない。どんな戦いにおいても生き残り、自分の信じる者を守り抜くことが騎士の務めなのだ」
とバッカス伯爵は考えていた。
怪物は、それでも、なかなか倒れなかった。
ながい時間、騎士の一撃後退の攻撃がつづいた。
その間にも、ひとり、またひとりと、騎士が怪物にひねりつぶされた。
「こいつは……不死身なのか!」
と、伯爵が舌打ちしたとき、ひとりの騎士が剣で怪物の赤い目を貫いた。
「ぎゃああああああああああああ!」
と、怪物がのたうつ。
「いまだ!」
一斉に騎士たちが怪物めがけて突進した。
教会に静寂がおとずれた。
聖なる場所に、血塗れの騎士たちが声もなく横たわっていた。
そのなかに、たったひとり伯爵は立ちつくしていた。
伯爵のからだにみなぎっていた豪快さは消えさり、まるでぬけがらの老人がそこにいた。
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