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ICON 新二都物語カルビサーガ 第23話

 魔法教会の一般のミサは、週末に行われていた。
「すべての海に生きる者に安息と平安を」
 海に死んだ者たちの魂を安らげる儀式にはじまり、明日海に出る者たちの無事を願う。
 大聖堂に響きわたる合唱隊の美しい声。重々しい魔法僧たちの説教。暗い室内に灯された数百本のロウソクの明かり。
 荘厳なミサである。
 ミサは、ネイタスのあらゆる階級の人々が出席して、深夜まで行われる。
 週末のミサが、終わり、人々が家路を急ぐ頃……。
 魔法教会の地下の祭壇では、別なミサが行われていた。
 それは、魔法教会の僧たちだけの〈闇ミサ〉であった。
〈闇ミサ〉は、魔法教会の結束と秩序を保つためのものだ。
 ミサが行われているわきの小部屋に、食事の支度がある。
 ローブを深くかぶった老僧がテーブルについていた。その前には、ぶ然とした顔で空挺隊のルースが座っている。
「突然のお越しで何もありませんが」
「メシはいらねえ。これを返しに来ただけだ」
 と、ルースは金の入った袋をテーブルに投げた。
「これは、律儀なお方ですな」
「姫君救出の手柄を、あのカルナックの野郎に横取りされちまったからな。この金をもらうわけにゃいかねえだろ」
「では、納めさせていただきます」
「じゃあな」
 と、ルースは足早に出ていった。
 ちょっと間をおいて、奥のカーテンがゆれ、太った中年男がテーブルに座った。
「なんだ。あんたが空挺隊のルースを動かしていたのか」
 と、男は、テーブルの上にある肉をつまんでうまそうにほおばった。
「国防大臣に見られてしまいましたな」
「うまい」
 老僧の言葉を無視して、大臣は二つ目の肉に手を伸ばした。
「はい。御禁制の肉でございます」
「竜か?」
「はい」
「うまいな」
「大臣のお力によって、山の国マウンティアを制圧できましたので、あそこの竜を狩ることができます」
「うん。竜はいい。力がわきでてくる」
「たっぷりとお召し上がりくださいませ」
「王宮騎士団のカルナックは、フルブ司祭が動かしたんだろう?」
「そうでございますか?」
「とぼけるなよ。あんたは、次の司祭を狙ってるな」
「口が勝手に動いていますぞ大臣。口は肉を食べるもの……食べながらのおしゃべりは災いの種を生みます」
「そうだった。まあ、おれは、うまい竜の肉がこうして食えればいいのだ。黙って食べよう。あははははは」
 笑っている大臣をローブのなかから老僧の目が冷ややかに見つめていた。
 その夜、海が荒れた。
 幾重にも重なる波が白く乱れ、町の防波堤を越えて荒れ狂った。
 風がビュウビュウとうなりを上げていた。
 執務室のアブラック王は分厚い本のページを破ると、かたわらのソファーに横になっている少女ククリに近づき、ぐっすりと眠っているのを確かめた。
 執務室の明かりが揺れて、王の顔に、不思議な陰影をつくった。


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