|
その日は、朝からネイタスの町を黒い雲がおおっていた。
城壁の各所に掲げられた王室旗が、だらりとたれ下がっている。
アブラック三世は、城の南側にあるムダに広い執務室のどでかい机に両足を乗せていた。
「ああ、あきたなあ。人生のことごとくに、あきあきしてる」
と、のんびりした口調で言った。
そのとき、正面の大きな扉が開き、侍従長が足早に入ってきて、一礼もそこそこに、
「陛下! 姫さまがおかえりになりました!」
と報告した。
「そうか。もどったか。よかった。買った。なに買った。ってね。はははは」
アブラックは窓の外を見ながらつぶやき、自分のダジャレにむなしく笑った。
「は、はい」
侍従長は、少しがっかりした。普通の父親なら、娘が二日も行方不明になってもどってきたのだから、もっと喜んでいいのにと思った。
「なんだ? 俺があいつのことを心配してないのが不満か?」
「あ、いや……あの……」
ずぼしだったので、侍従長はたじろいだ。
「いい。下がれ」
「はい。失礼いたします」
「失礼いたシマウマ! って教えたろうが」
「あ、はい……失礼いたシマ……ウマ……」
困った表情で、冷や汗をたらしながら、侍従長が執務室をあわてて退散した。
また、部屋には、静けさが返ってきた。
「ああ……」
アブラック三世は、どんよりとした空を見つめた。そして、おもむろに、鼻毛を抜きはじめた。
「ああ、退屈……怠靴みがき! ははは、こりゃ、おもしれえや」
王は孤独だった。
アブラック三世は、シーアスの飾りものの王であった。
そのことを、この城のだれもが知っていた。
実際に国の運営を行っているのは行政府である。
その行政府の役職は、魔法教会が任命することになっていた。
だから、魔法教会は行政府を動かし、シーアスを思いのままに動かせるのだった。
陰の王として。
もし、そのことを不満に思い、魔法教会を排除しようという王がいたとしよう。
そのときは、魔法教会は、あらゆる手段をもって、玉座から王を引きずりおろすだろう。もしもそれが叶わぬときは、王の命そのものを奪うはずだ。
いや、現に、アブラック三世の祖父の死には疑わしいところがあった。だが、実際のところは、闇に葬られてしまってわからないのだった。
「あいつは、俺の娘じゃねーんだよ。あいつはな……」
誰に言うともなく、アブラック三世がつぶやく。
そのとき、城の中庭で、いきなり爆竹が鳴った。
「騎士団の連中か……バア野郎めが……ふん」
鼻先で笑いながら窓を開けた。
中庭の真ん中の噴水に、王宮騎士団が30人ばかり、カルナックを囲んでいた。
「なあ、色男! で、どーだったんだ、姫さまはよ?」
「なにが?」
「きまってんじゃねーか。あの虎から助けたんだ、ごほうびにチュッとかさ……」
黒い翼を持つ虎、山の神からスターシア姫を取り戻してきたとあって、仲間の騎士連中が、その顛末を聞こうと色めきたっていた。
「おい。相手は、姫さまだぞ!」
と、カルナックは微笑んだ。
|