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「カルナックか……」
「魔法教会の最高権力者であるフルブ司祭が、こんなわたくしに何のご用でしょうか?」
大きな部屋だった。魔法教会の執務室だ。天井や壁には、金の彫刻がいっぱいにほどこされていた。
ここが、この国の権力の中枢とも言える場所だった。
「スターシア姫がいなくなった」
フルブ司祭は赤い目で、カルナックをにらみつけた。まるで、カルナックをとがめるように。
「わたしの責任ですか?」
チクチクと心を刺してくる赤い目を、真正面から見つめてカルナックが平然と答えた。
司祭の赤い目を、そうやって見られる人間は、王国のなかで多くはなかった。
「当然だろう。魔法教会がお前たち騎士団に最高の栄誉をあたえているのは、王とその一族のために命を落とすからだ……」
司祭のしわがれた、だが、重い声が威圧的に聞こえた。
「そこまで騎士団が責任を負うのですか、いまじゃ、王だろうと姫だろうと、あなた方教会でつくり出せるじゃないですか」
カルナックは軽く受け流した。
もともと、騎士団のなかでも、有名なプレイボーイである。女の一人や二人のことで責任うんぬんと言われることが不愉快だった。
だが、この話は、ちょっとカルナックに別の考えを浮かばせていた。
(王になるか)
ふと、そんなことが頭の中をよぎった。
平民出身のカルナックにとって、これは最高の、夢のようなサクセス・ストーリーであった。
「あの姫は、われわれ教会にとって、重要なのだ。それは理解してもらいたい。そして、あの姫と結婚したものが、この国の王となるだろう」
「わかってます」
カルナックがニッコリと笑った。屈託のない笑顔だった。彼の、一番のお気に入りの笑顔を披露した。
「教会も動いている。そして、空挺隊も動いておる。おまえにも動いて欲しい。よいな」
「……はい」
と、カルナックは立ち上がり、一礼して、その息苦しい部屋を出た。
「空挺隊のルースの野郎が出てるのか……」
騎士団と空挺隊とは仲が悪かった。そのなかでも、特に、カルナックとルースは幼なじみでありながら、犬猿の仲として有名だった。
カルナックは最下層の平民出身だった。しかし、貴族のような容姿と洗練された話術により、王宮騎士団の一員にまで出世した。その反対に、ルースは下級貴族の家に生まれながら出世の道を酒と喧嘩で失った。二人とも今年で二二歳になる。一〇代の頃、カルナックはルース家の下働きであった。その関係こそが、いまの二人の間のミゾとなっていた。
「わたしが……王となったら、いったいどんな未来が待っているのだろう……」
つぶやいて、カルナックはマントをひるがえすと、鉄騎馬にまたがり、
「はいっ!」
と、ムチをくれると、夜の闇のなかを疾走していった。
行く先は〈あやかしの森〉。
「ひさびさに、魔女たちと酒を酌み交わそうか」
と、カルナックは、やわらかく笑った。
月は、雲に隠れている。
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