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遠くに笛の音が聞こえる。
素朴で美しく、もの悲しさを秘めた潮騒のような音色だった。
古くから、漁師たちの間で受け継がれている海笛の音色だ。
「舞踏会は中止ですってね」
「そう。スターシア姫が行方不明なんですってよ」
「まあ、たいへん!」
「でも、いい気味よ。あのアブラック王が苦しむのは!」
「あら、あなた、アブラック王さまに捨てられたの」
「捨てたのよ」
「まあ、強がりね」
着飾った貴族の中年女が数人、町の高級酒場で噂話に花を咲かせていた。
ゴ ン!
と、夜のミサを告げる教会の鐘が、夜のとばりをひきずりながら鳴った。
「ミサに出ないの?」
「あら、あなた信心深いのね」
「まさか」
「はははは。そーよね」
女たちは、強い酒をあおった。
シーアスには、幾つもの町がある。
特に、にぎわっているのは、王宮のある〈ネイタス〉だ。
ネイタスの町は、湾に突き出した町で、海を支配することで繁栄していた。
金も宝石も石油も豊かな食材も、すべて海から作り出していた。
だから、海の魔物から人を守る〈魔法教会〉は、この町から生まれ、しだいに絶対権力となったのだった。
古老たちの話によれば、〈魔法教会〉は、フランチーニという僧がネイタスに小さな教会を建てたことで始まったということだ。
当初の目的は、船の安全を祈願し、また、漁師たちの病気を治すことだったらしい。
その〈魔法教会〉が爆発的に大きくなったのは、いまから一五〇年前、クレア一世の時代だ。
魔法による金の発明。
そのことが、シーアスを巨大な国にした。
それに、ともなって〈魔法教会〉は、王を選べるほどの力を持った。
巨大な教会内の壁という壁に、たいまつの明かりが灯っている。
祭壇には、貢ぎ物がそなえられ、祈りがくりかえされていた。
列席しているのは、この国の主だった人間たちだ。
祈りは、スターシア姫のために捧げられていた。
「よう、カルナック。あいかわらず、女にモテモテらしいな」
軽口をたたいたのは、王宮秘書官の男だ。
「女にモテない男はあわれですよ」
隣に座っていた王宮騎士団のカルナックが、平然と言ってのけた。
「ちぇっ」
小さく舌打ちして、秘書官は黙ってしまった。
「カルナックさま……司祭さまがお呼びです」
と、そのとき、ひとりの僧が音もなく近づき、カルナックの耳元に告げた。
「わかった」
と、カルナックは立ち上がり、横の大きな扉を開けてなかに消えた。
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