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「え?」
スターシアが顔をあげた。
海面スレスレに、黒いかたまりが急速に近づいていた。
ネコットは、緊張した。反射的にスターシアの前に立ち、腰の剣に手をかけた。
だが、まったくどうしたことだ。
恐怖が心の中にふくらんでいた。
ネコットは大きく目を見開き、その場に釘付けとなった。
足が地面に接着剤でくっつけられたように動かなかった。
背後で、スターシアの声がした。
だが、その声さえも、遠いかなたの雑踏の中にかき消えた。
「ネコット!」
スターシアが声を張り上げ、一発、ネコットのほおを平手で張った。
パチンと小気味よい音が響いた。
「あっ! ス、スターシアさま……」
ネコットが我に返る。
「なにを、ぼんやりしているの!」
「は、はい」
「虎よ! 本当に虎が飛んできたわ!」
と、スターシアは剣を抜きはなった。
虎が、ふたりに向かってくる。
「背中に、だれか乗っています!」
剣を抜きながら、ネコットが叫ぶ。
「王国の市民が騒ぎださぬうちに、わたしが退治します!」
きっぱりとスターシアが言った。
「はい。わたしもお手伝いいたします」
ネコットも剣の腕はかなりのものだが、スターシアにはかなわなかった。
スターシアの剣は、王宮騎士団の名騎士とうたわれた、かのグリフォン男爵直伝のものだった。
グングンと少年を乗せた、空飛ぶ虎が近づいてくる。
スターシアは剣をかまえ、グッ! と腰を落とした。
虎が近づく。
スターシアが口を真一文字に結ぶ。
さらに、虎が近づいた。
スターシアの剣を持つ手に力が入る。
「ぐるるるるるるるる!」
虎がうなりながら、スターシアに襲いかかった。
「右!」
虎に乗った少年が叫ぶ。
「てああああああああ!」
裂帛の気合いのもと、スターシアは剣を振り上げた。
虎は、右にほんの少し回転した。
たった、それだけのことで、スターシアの剣は空を斬った。
「スターシアさま!」
ネコットが叫んで、剣を横にはらう。
ネコットの剣がナムルのうしろ足をかすめた。
「この野郎!」
と、カルビが、タッ! と後方に跳んで、ネコットの顔面を蹴飛ばし、そのまま虎の背中にもどった。
早い! なんという早い動きなんだ!
ネコットは、おもいっきりすっころがった。
「やれ! ナムル!」
カルビの声で、ナムルはスターシアをにらみつけ、天空に停止した。
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