Top 見る・読む 参加する ご案内
ICON 新二都物語カルビサーガ 第9話

 海面すれすれに飛行する、黒い翼をもつ虎ナムルの背中には、一三歳の少年カルビがまたがっていた。
「なあ。シーアスの姫って、どんなヤツだ?」
 ナムルの背中で、カルビが聞いた。
「冷たそうな女だ」
 遠くを見られる不思議な左目で、かなたのシーアスの町をのぞきながらナムルが答えた。
「シーアスの女なんて、みんな山の中にすてちゃおう!」
 カルビが一瞬、凶悪な目をした。
 体から、怒りのエネルギーがほとばしる。
 バチバチッ!
「うああ! や、やめろ! カルビ! 俺の背中で、怒るのはやめてくれ! おまえさんの怒りのエネルギーは強烈なんだ。背中が焦げちまうぜ。まったく」
 ナムルがぼやく。
「ごめん」
「まあ、おまえが怒るのもムリはない……海の国シーアスのやつらは、山の国マウンティアを理不尽に滅ぼしたんだからな」
「…………」
 カルビがグッと唇を噛んだ。一瞬、父と母のことを思い出した。
「さあ、もうすぐ、シーアスだぞ! 覚悟はいいな」
「ああ!」
 シーアスの広場に鉄騎馬を止めた王女スターシアは、井戸の水を飲んでいた。
「姫さま、疲れましたか?」
 従者のネコットがスターシアを気づかった。
 スターシアは、この程度の視察で疲れる、やわな姫さまではなかった。もちろん、幼い頃よりそばにいる従者ネコットも、十分にそのことは知っていた。
 だが、今日は、いつもの姫さまの活気がなかった。
 そのことが、心配だった。
「だいじょうぶよ」
 スターシアが、やわらかく笑った。
 ネコットは、ほっとした。
 ふたりの歳は同じ。生まれ月も生まれた日も同じだった。
 王宮の審議委員会は、王位継承者の管理もおこなっている。その審議委員たちが、スターシア六歳の六月六日に、従者の者を一二名選んだ。そのなかに、ネコットもいた。
 その一二名の従者のなかから、スターシアはネコットを選び従者長にしたのだ。
 従者というのは、どんなことがあっても、主人を守りぬかねばならない。だから、主人のすべてを知っている必要があったし、いつも主人とともに行動しなくてはならない。
 従者にプライベートなどというものはなかった。

 ネコットは一四歳だが、命がけで主人である王女スターシアのために働くことを誇りに思っていた。
 スターシアが黒のドレスの裾を膝上までたくしあげた。
 スラリとのびた足に、黒い編み上げのブーツがフィットしていた。
「どうしました?」
「ちょっと、ヒモがきついの。ブーツを新しくしたばかりだから」
 と、スターシアがかがんで靴のヒモを結び直した。
 そのとき、
「あれは?」
 とネコットが、広場からのぞむ海を見て言った。


前へ 新二都物語カルビサーガTOPへ戻る 次へ 
PageTopへサイトマップへ
著作権についての考え方