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「こりゃすげえ!!」
天空を飛びながら、虎がつぶやいた。
「どうした? ナムル!」
背中にまたがった少年が虎の顔をのぞき込んだ。
「おれの目に、シーアスの姫が映ってるんだ」
「シーアスの姫だって!?」
少年は、ナムルの目が遠くのものを見ることができる特別な目だということを知っていた。
「ああ。あの姫さまをかっさらうってのは、どうだい? カルビ!」
と、虎が鼻を鳴らした。
「シーアスの国中が慌てる!」
カルビと呼ばれた少年の顔に笑みが浮かんだ。
「よし! そーと決まれば、引っ返そう!」
ナムルがニヒルに笑った。
ギュウウウウウウウウウン!
と、回転して、ナムルの黒い翼が、バサッ! と、ひとつ大きく風を切った。
カルビはナムルの背中にしがみついた。
その時カルビは、ふと、ナムルとの出会いを思い出した。
それは、10年前……〈七年戦争〉のはじまりの年……銀の国とも呼ばれる山の国マウンティアが、はじめての戦火にみまわれた〈黒い山羊〉の年。
銀の国マウンティアに隣接する、金の国シーアスの大魔王イドスが「銀の国が、金の国に災いをもたらすだろう!」と予言した。
この予言により、金の国シーアスと銀の国マウンティアの間に〈七年戦争〉が起こった。
カルビが三歳のときだった。
戦火は、カルビから両親を奪った。
父と母は天空から降りそそぐ砲火によって焼かれた。
そのとき、カルビは泣きもせずに、じっと、両親のかたわらに、まるでふたりを守るように座っていたという。
三日間、カルビは、飲まず食わずで、そうしていた。
すると四日目の朝、カルビは石になった。そう、たしかに石になったのだ。
両親を失った幼子が、戦火のなかで、いったい何を感じたのか? それを理解することはできない。だが、宇宙の真理にふれた荒武者が、修行のはてに到達すると言われている人石に、たった四日間で、この少年は達したことになる。
人石は、命の結晶ともいわれている。
その人石を、山の神が喰らいに来た。
山の神はナムル。黒い翼を持った虎。
「がははは。人石ができるとはめずらしい。こいつを食えば1000年寿命がのびる」
ナムルは、石になった三歳のカルビを丸飲みした。
ところが、飲み込んだとたん、ナムルはからだをくの字に折って苦しみだした。
「ぐあああ! 助けてくれ……く、苦しい」
ナムルは背中の毛を逆立てて、そこら中の岩を砕き、木々を倒し転げ回った。
そして、「ぐおおおおおおお!!」と、ひと吠えすると、いきなり黒い翼をはばたかせ、天空に飛び立った。
苦しみをやわらげようと、ナムルはムチャクチャに天空を飛び回った。
グオ ン!
と、ナムルは、銀の国で一番高い霊峰山にぶちあたり、地中深くに潜り込むと、その身を小さく丸くして気絶した。
山に雪が降った。
そうして、ナムルは、石となったカルビを腹のなかに飲み込んだまま、七年間眠った。
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