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ICON 新二都物語カルビサーガ 第5話

 机の下の闇のなかから、その老人はフワリと立ち上がった。
 老人は茶渋で煮染めたような布で、頭から足の先まで覆っていた。
「盗み聞きとは、いかに教会の者とて、いい趣味とはいえんな」
 アブラック三世は表情を固くした。
「アブラック王。あなたが、そうして平和に若い女の尻を追いかけていられるのは、いったい誰のおかげだと思っているのですか?」
 しわがれた声で、老人が言った。
「教会だ!」
「ほほほほ。忘れてしまったのかと思いました」
「だが!」
「だが?」
「盗み聞きは……」
「わが魔法教会は、この城のすべてを手に取るようにわかっているのですよ。いまさら、あなたの部屋に忍び込まなくても、あなたの趣味から寝言までわかっています」
 老人が鼻の先で小さく笑った。
「…………」
「この国を動かしているのは、われわれ魔法教会なのだということは、あなたにもおわかりのはずだ。そのことが腹にすえかねるのであれば、あなたは、あのバラック街の暗がりに追い出されることになりますな」
 老人は魔法教会の人間だった。魔法教会は、王の存在など髪の毛ほども畏れていなかった。
「で、用件はなんだ!?」
「あなたの娘はそろそろ一五歳になります」
「それがどうした!」
「教会は、あたらしい巫女を必要としています」
「ま、まさか!」
「スターシアを教会に頂戴したい」
「ふ、ふざけるなよ……」
「そんなことは言えないはずじゃ」
「…………」
「では、了承していただく」
 老人が、フッと闇に溶けて消えた。
 町のいたるところで、天から降ってきた虎の話がささやかれていた。
 鉄騎馬にまたがったスターシアが、
「天から降る虎などはいない! 心配するな! よからぬ噂を流す者は断固処罰する!」
 と声をあげた。
 供の者はたったひとり、若いネコットだけだった。
「ネコット」
「はい。姫さま」
「おまえは、天から降る虎などがいると思うか?」
「はい。そのようなウワサは、銀の国にあると……」
 少女のように可憐なネコットは、これでもりっぱな男なのだった。
 叶わぬ夢とは知りつつ、ネコットは密かにスターシアを想っていた。
(この方のためなら、わたしの命など……)
 と思うのだった。
「銀の国など三年も前に滅びた! さあ、広場まで走ろう!」
「はい!」
 二頭の鉄騎馬が町中を走り抜けていった。


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