| 世界はカオスに包まれている。そして「語り部」によって、その歴史を刻む。 |
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BGM:フジ子=ヘミングの『カンパネラ』 |
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| 男1 |
「ジェリーグリーンの森は、今日も薄墨を流したような表情を見せている。森の中央にひときわ高くそびえる巨木は、ずっとそこにいて、この国の歴史を見つめている。森の中に足を踏み入れると、ひんやりとした空気がほとばしる情念を一時、冷ましてくれる。下草はどこも絨毯のように厚く敷かれ、いたるところに清冽なわき水を見つけることができる。森は深く、そして神聖であった」 |
| 女1 |
「ジェリーグリーンの泉は、今日も深い悲しみの色を浮かべ、静かにたたずんでいる。泉の中央にある浮島には、この国が出来る以前、龍たちが住んでいた、と語り継がれている。そして"泉の水に、からだをひたした人間は龍の呪いによって命を落とす"と言われていた」 |
| 男1 |
「その日、男と女は森のなかに足を踏み入れた。胸をしめつけるようなせつない時間が流れていた」
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SE:雷鳴 |
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| 女2 |
「いやです! もう一度、王様にお頼みします。なぜ、なぜ好きなお方と結婚が出来ないのかと……」 |
| 男2 |
「それはあなた、無理なお話しですよ。あなたは美しい位のお生まれだ。それに高い血筋がおありになります」 |
| 女2 |
「位にいかほどの価値がありましょう。血筋に希望などありません」 |
| 男2 |
「疑ってはいけません」 |
| 女2 |
「疑います。わたしたちを取り巻くすべてを疑います。わたしに信じられるものがあるとすれば、それはあなたの愛だけ」 |
| 男2 |
「では、その愛も疑いなさいませ」 |
| 女2 |
「なぜ、なにを疑えとおっしゃるのです……」 |
| 男2 |
「愛という言葉を、その可憐な唇から言葉にしてお出しになった瞬間を、です。愛という言葉をです」 |
| 女2 |
「愛という言葉をですか」 |
| 男2 |
「その柔らかな胸に秘めた思いは、愛などという言葉に似つかわしくありません。秘めればこその思いは、言葉にはとうていなりませんよ」 |
| 女2 |
「あなた、わたしをお嫌いになりました?」 |
| 男2 |
「幾千の時間、あなたの思いを抱き、わたしの思いを注いだあなたを、いったいどうして嫌いになどなりましょう……」 |
| 女2 |
「ならば……」 |
| 男2 |
「だから……」 |
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SE:雷鳴 |
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| 女2 |
「いかにわたしたちを取り巻く世間が、ふたりを認めてくれなくとも、たとえ、あなたがわたしの言葉に疑いをかけようと、わたしの思いは一点の曇りもありません」 |
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SE:雷鳴 |
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| 男2 |
「愛の言葉だけで生きてゆけるほどに、人間は純粋ではありません」 |
| 女2 |
「ならば、生きなければいいのです」 |
| 男2 |
「それもまた、言葉遊び……」 |
| 女2 |
「いいえ。この世で生きることが難しいのなら、あの世で生きましょう。そして、わたしは、わたしの真っ直ぐな思いを貫いてみせましょう」 |
| 男2 |
「おやめなさい。それほどの純粋である必要はありませんよ、あなた」 |
| 女2 |
「愛は、あなたに見せるためのものではありません。愛は、わたしの思いです。あなた、そう言いました。愛は秘めたる思いだと」 |
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SE:雷鳴 |
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| 男2 |
「あなた、いけない。その泉に、入ってはいけない」 |
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BGM:フジ子=ヘミングの『カンパネラ』 |
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| 女1 |
「女はジェリーグリーンの泉に体を浸し、その命を絶った」 |
| 男1 |
「男はジェリーグリーンの森の中で、長い時間、泣いていた」 |
| 女1 |
「この世で、ふたりが結ばれることはない」 |
| 男1 |
「永遠の別れの中に、愛を見つけることが出来る。そして、この日、ひさしぶりの太陽が森の中を照らした」 |