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ICON 第10回 龍の泉
世界はカオスに包まれている。そして「語り部」によって、その歴史を刻む。
 
  SE:汽車の音
 
有喜 「旅に出ることにしました。気ままな旅です。どこに行くのか決めない旅です。とにかく汽車に乗りました。汽車は北へ向かいます。北へ向かうと、なぜか胸がキュンとなります」
 
 
「ここ、あいてますか?」
有喜 「は、はい。どうぞ」
「では、失礼して」
 
「ひとりで、ぶらり旅ですか?」
有喜 「え……、は、はい。でも、どうして?」
「どうしてわかったのか、って?」
有喜 「はい」
「だって、荷物がほとんどない。それに、そこにある切符。その行き先は、ず〜っと手前の駅です。って事は、飛び乗りで適当に切符を買ったってことです」
有喜 「あ、はは。その通りです」
「お勤めですか?」
有喜 「はい。丸の内のほうで、オフィスガールしてます」
「そう、丸の内で。じゃあ、月給はいいんだろうなあ」
有喜 「まだ、そんなにいいほうじゃありません」
「でも、今年はオリンピックで、高速道路も出来たし、企業はどこも景気がいいっていうじゃない」
有喜 「景気は、いいのかもしれないけれど、自由な時間がなくなってしまって……。このままじゃ、なんだか会社の為に生きているような、そんな息苦しさを憶えてしまって……」
「それで、旅に?」
有喜 「はい」
「そう。じゃあ、この次の駅で降りて、それから駅前でバスに乗るんだ。それで終点まで行ってごらん。騙されたと思って」
有喜 「はい……」
 
  BGM:ほのぼのした曲
  SE:バスの音
   
有喜 「わたしは、男の言った通り、次の駅で降りてバスに乗った。開け放たれたバスの窓から涼しい山の風が、じっとりと流れる汗を落ち着かせてくれた」
「よっこらしょ。ちょっとごめんなさいよ」
有喜 「あ、は、はい」
「あんた、都会の人?」
有喜 「はい」
「ああ。で、どこに行ぐの?」
有喜 「終点までです……」
「ふーん。終点に何しに行ぐの?」
有喜 「さ、さあ……」
「"さあ?ってあんた、なんの用事もないのに、あげなとこさ行くの?」
有喜 「"あげなとこさって、どんなとこなんですか?」
「うわ。じゃあ、終点に何があるか知らないで行くの?」
有喜 「は、はい。ねえ、お姉さん、終点に何があるんです?」
「龍の泉だ」
有喜 「龍の泉……」
「ああ、大昔な、このあたりにはたくさんの龍が住んでいたんだ。ところがよ、人間様がな、たーくさん増えてよ、こんな山奥にまで畑作ったり、家作ったりしてな、龍の森をどんどん伐採してなあ……。怒った龍が、人間に襲いかかったんだ。それから、人は龍を恐れてな、龍狩りを頻繁に行っただ……。悲しいかな、それから数百年でな、このあたりの龍は全滅した。最後の龍は、小さな子供を抱えていたという話じゃ。その母龍は、子供龍が殺されると、大きな涙を流した。その涙が泉になったんじゃ。母龍は、涙の泉に身を沈め、"二度と人間が長く生きられないようにと、呪いの言葉を残したという事じゃ。それから、この地方では、人の寿命が50年になったという事じゃよ」
有喜 「かわいそうな龍……」
 
  SE:バスの停止音
 
「あれま、長話をしてしまった。じゃあ、お元気よう。あたしゃ、ここで降りるが、泉に長居は禁物だよ」
有喜 「ありがとうございます」
「どういたしまして」
 
  SE:バスが発車する音
  SE:バスの停止音とクラクションの音
 
運転手 「お客さん……、終点ですよ」
有喜 「は、はい。あのう、帰りのバスは……いつごろ?」
運転手 「えーと、夕方の5時頃だね」
有喜 「ありがとう」
運転手 「お客さん、龍の泉に行ぐんかい?」
有喜 「え……、はい」
運転手 「そったら、その横道をよ、右だな、そこ下った先だよ」
有喜 「はい、わかりました。ありがとう」
 
  SE:走り去るバスの音
  SE:無数の蝉の声
 
有喜 「うわあ。これが、龍の泉かあ……。ふふっ、冷たい。いい気持ちだな……。なんて晴れ晴れとした気持ちだろう。この泉に立っていると、わたし、胸のつかえがスーッとなくなる。ずっと前に、わたし、この泉に立っていたような気がする……。わたし……」

●配役/有喜:豊口めぐみ/男:山口勝平/女:横山智佐/
運転手:広井王子/タイトルコール:豊口めぐみ

●出演はがき
城之内スイリンさん(茨城県)
龍の泉
●ドラマ終了後のトーク
 不思議な余韻を残す今回の話に、ドラマ終了後「また続きが聞きたくなる話ですね〜」と横山さんが言った。そして横山さんのやった役の女の人が意味ありげで気になると言うと、広井さんが種明かしをする。投稿されたはがきの段階では、この老婆もまた龍であったということであるらしい。横山さんは老婆だと思わずに演技していたということだが、劇中で「お姉さん」と気を遣われて呼ばれていたことに後で気付き、「気を遣われてたんだ〜」と何故か困った様子であった。

2000年06月24日放送マル天ダイジェストはこちら


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