| 世界はカオスに包まれている。そして「語り部」によって、その歴史を刻む。 |
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SE:汽車の音 |
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| 有喜 |
「旅に出ることにしました。気ままな旅です。どこに行くのか決めない旅です。とにかく汽車に乗りました。汽車は北へ向かいます。北へ向かうと、なぜか胸がキュンとなります」 |
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| 男 |
「ここ、あいてますか?」 |
| 有喜 |
「は、はい。どうぞ」 |
| 男 |
「では、失礼して」 |
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| 男 |
「ひとりで、ぶらり旅ですか?」 |
| 有喜 |
「え……、は、はい。でも、どうして?」 |
| 男 |
「どうしてわかったのか、って?」 |
| 有喜 |
「はい」 |
| 男 |
「だって、荷物がほとんどない。それに、そこにある切符。その行き先は、ず〜っと手前の駅です。って事は、飛び乗りで適当に切符を買ったってことです」 |
| 有喜 |
「あ、はは。その通りです」 |
| 男 |
「お勤めですか?」 |
| 有喜 |
「はい。丸の内のほうで、オフィスガールしてます」 |
| 男 |
「そう、丸の内で。じゃあ、月給はいいんだろうなあ」 |
| 有喜 |
「まだ、そんなにいいほうじゃありません」 |
| 男 |
「でも、今年はオリンピックで、高速道路も出来たし、企業はどこも景気がいいっていうじゃない」 |
| 有喜 |
「景気は、いいのかもしれないけれど、自由な時間がなくなってしまって……。このままじゃ、なんだか会社の為に生きているような、そんな息苦しさを憶えてしまって……」 |
| 男 |
「それで、旅に?」 |
| 有喜 |
「はい」 |
| 男 |
「そう。じゃあ、この次の駅で降りて、それから駅前でバスに乗るんだ。それで終点まで行ってごらん。騙されたと思って」 |
| 有喜 |
「はい……」 |
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BGM:ほのぼのした曲 |
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SE:バスの音 |
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| 有喜 |
「わたしは、男の言った通り、次の駅で降りてバスに乗った。開け放たれたバスの窓から涼しい山の風が、じっとりと流れる汗を落ち着かせてくれた」 |
| 女 |
「よっこらしょ。ちょっとごめんなさいよ」 |
| 有喜 |
「あ、は、はい」 |
| 女 |
「あんた、都会の人?」 |
| 有喜 |
「はい」 |
| 女 |
「ああ。で、どこに行ぐの?」 |
| 有喜 |
「終点までです……」 |
| 女 |
「ふーん。終点に何しに行ぐの?」 |
| 有喜 |
「さ、さあ……」 |
| 女 |
「"さあ?ってあんた、なんの用事もないのに、あげなとこさ行くの?」 |
| 有喜 |
「"あげなとこさって、どんなとこなんですか?」 |
| 女 |
「うわ。じゃあ、終点に何があるか知らないで行くの?」 |
| 有喜 |
「は、はい。ねえ、お姉さん、終点に何があるんです?」 |
| 女 |
「龍の泉だ」 |
| 有喜 |
「龍の泉……」 |
| 女 |
「ああ、大昔な、このあたりにはたくさんの龍が住んでいたんだ。ところがよ、人間様がな、たーくさん増えてよ、こんな山奥にまで畑作ったり、家作ったりしてな、龍の森をどんどん伐採してなあ……。怒った龍が、人間に襲いかかったんだ。それから、人は龍を恐れてな、龍狩りを頻繁に行っただ……。悲しいかな、それから数百年でな、このあたりの龍は全滅した。最後の龍は、小さな子供を抱えていたという話じゃ。その母龍は、子供龍が殺されると、大きな涙を流した。その涙が泉になったんじゃ。母龍は、涙の泉に身を沈め、"二度と人間が長く生きられないようにと、呪いの言葉を残したという事じゃ。それから、この地方では、人の寿命が50年になったという事じゃよ」 |
| 有喜 |
「かわいそうな龍……」 |
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SE:バスの停止音 |
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| 女 |
「あれま、長話をしてしまった。じゃあ、お元気よう。あたしゃ、ここで降りるが、泉に長居は禁物だよ」 |
| 有喜 |
「ありがとうございます」 |
| 女 |
「どういたしまして」 |
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SE:バスが発車する音 |
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SE:バスの停止音とクラクションの音 |
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| 運転手 |
「お客さん……、終点ですよ」 |
| 有喜 |
「は、はい。あのう、帰りのバスは……いつごろ?」 |
| 運転手 |
「えーと、夕方の5時頃だね」 |
| 有喜 |
「ありがとう」 |
| 運転手 |
「お客さん、龍の泉に行ぐんかい?」 |
| 有喜 |
「え……、はい」 |
| 運転手 |
「そったら、その横道をよ、右だな、そこ下った先だよ」 |
| 有喜 |
「はい、わかりました。ありがとう」 |
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SE:走り去るバスの音 |
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SE:無数の蝉の声 |
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| 有喜 |
「うわあ。これが、龍の泉かあ……。ふふっ、冷たい。いい気持ちだな……。なんて晴れ晴れとした気持ちだろう。この泉に立っていると、わたし、胸のつかえがスーッとなくなる。ずっと前に、わたし、この泉に立っていたような気がする……。わたし……」 |